足の形は、その方の歩んできた人生をそのまま映していることがあります。今回は、訪問先で出会った80代の女性のお話です。長年のハイヒールが残した足は、ご本人にとっては「見せたくない足」でも、聞かせていただいた歩みは、まばゆいものでした。
「私、エレベーターガールだったの」
そのお宅にうかがったのは、外反母趾と肥厚爪のケアのご依頼でした。靴下を脱いでいただくと、長年の負担が積み重なった足が現れました。親指は内側に大きく曲がり、爪は厚みを増し、形も少し変わっていました。一目で、長く歩いてこられた足だとわかりました。
ケアの準備をしていると、女性がぽつりと話し始めました。
「私ね、若いとき、エレベーターガールをしていたのよ」
そこから先は、まるで時間が巻き戻ったかのようでした。デパートのこと、制服のこと、お客さまとのやりとり。話す声が、はずんでいきます。当時の高揚感が、今もちゃんとご本人のなかに残っているのが伝わりました。
「毎日、ハイヒールでね。背筋を伸ばして、笑顔でいなさいって言われたのよ」
その「毎日」が、何十年と続いた結果が、今、目の前にある足なのだと、ふと思いました。
それでも、誇らしげに
外反母趾も肥厚爪も、ご本人にとってはあまり人に見せたくないものです。実際、最初は少し恥ずかしそうにされていました。
けれど、エレベーターガール時代の話になると、その恥ずかしさはどこかに消えていました。話しているあいだ、足のことよりも、自分が輝いていた時代のことに、まっすぐ目が向いていました。
「あの頃は、本当に楽しかったの」
そう、繰り返し言ってくださいました。
私には、その足が「勲章」に見えた
ハイヒールが外反母趾の大きな原因になることは、医学的にもよく言われています。長年の負担で、親指の付け根の関節が変形し、もとには戻りにくくなります。爪の形も、靴のなかで圧迫を受け続けることで変わっていきます。
そう説明すれば、いくらでも「ハイヒールの弊害」として語れる足です。
けれど、その日のケアのあいだ、私の頭にはずっと別の言葉が浮かんでいました。
この足は、勲章だ、と。
毎日、背筋を伸ばし、笑顔で立ち続けた何十年が、この一つひとつの曲がりに刻まれている。痛みも、変形も、たしかにある。でも、それは「失敗の跡」ではなく、「働き続けた証」でもあるのです。ご本人が誇らしげに話されるのは、当然のことだと思いました。
足を整えながら、お話を聞く
その日は、爪をできるだけ薄く、痛みのない長さに整え、外反母趾の出っ張った部分が靴に当たって痛まないようにケアしました。痛みをやわらげること、これ以上の悪化を防ぐこと、ご本人がまた気持ちよく外に出られること。それが目的でした。
ケアの終わりに、女性はこう言ってくださいました。
「これでまた、ちょっと出かけたくなるわね」
エレベーターガール時代のように背筋を伸ばして、というわけにはいかないかもしれません。それでも、足が楽になれば、外に出る気持ちも、すこし戻ってくる。フットケアでお返しできるのは、そういう小さな日常です。
同じ悩みのある方へ
外反母趾は、進行を完全には止められなくても、痛みをやわらげる工夫はたくさんあります。
- 足に合った靴を選ぶ(つま先にゆとり、安定したヒール)
- インソールで負担を分散する
- 出っ張りに当たらない靴下や、保護パッドを使う
- ストレッチや、足指を動かす習慣をつける
「もう変形しているから」とあきらめずに、できることを少しずつ加えていくだけで、毎日の歩きやすさは変わります。
おわりに
足の形は、その人の生き方の記録でもあります。ハイヒールで歩き続けた足を、欠点として見るのか、輝いていた日々の勲章として見るのか。それは見る側にも問われていることだと思います。
ご家族で、足の変形や痛みでお悩みの方がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。痛みを取り、これ以上悪くしないためにできることは、必ずあります。
足元から、その人の歩みが、ひとしずくずつ、語られていきます。
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