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足浴を、毎回楽しみにしてくれた人の話

私が訪問看護師として働いていた頃、患者さんのお宅を回るなかで、足のケアをすることがよくありました。爪を整える前に、足浴(足をお湯であたためること)をします。汚れを落とし、爪をやわらかくし、血行をうながすための準備です。

ただ、振り返ると、足浴は「準備」だけの時間ではありませんでした。今回は、訪問看護のなかで出会った、足浴を毎回楽しみに待ってくれた方のお話です。

目次

「今日はお湯、まだかい」

担当していた、90歳近い男性がいました。月に二度、お宅にうかがっていました。最初の数回は、ほとんど口を開かれませんでした。ケアの間も、テレビのほうを向いたままでした。

変わってきたのは、足浴を始めてしばらくしてからです。お湯に足をつけてしばらくすると、肩の力がふっと抜けて、ぽつりぽつりと話されるようになりました。昔の仕事のこと、若い頃に行った土地のこと。次に伺うと、玄関で「今日はお湯、まだかい」と先に言われるようになりました。

足浴そのものを楽しみに待ってくださっている、と気づきました。

足浴は、観察と会話の時間でもありました

足浴の数分は、看護をする側にとっても大切な時間でした。

  • お湯につけている間に、足の色・むくみ・傷・皮膚の乾燥をゆっくり観察できる
  • 温まることで血行がよくなり、その日の状態が見えやすくなる
  • 体がほぐれると、ふだん話されないことを話してくださることがある

「最近よく眠れない」「右足だけ重い気がする」――そうした言葉は、たいてい足浴の最中に出てきました。処置の手を動かしているときよりも、お湯につかってゆったりしているときのほうが、本当のことが聞けたのです。バイタルや記録だけではわからないことを、足元の時間が教えてくれました。

「気持ちいい」が持つ意味

高齢になると、痛い・つらい・気をつけて、という言葉に囲まれがちです。そのなかで「気持ちいい」と感じられる時間は、思っている以上に少なくなっています。

足浴は、特別な機械も難しい技術も要りません。ぬるめのお湯と、少しの時間だけです。それでも、「気持ちいい」と言ってもらえる時間は、その方の一日の中の小さなはりになります。次の訪問を楽しみに待つ理由にもなります。

訪問看護のなかで足のケアを続けるうちに、ケアは悪いところを直すためだけのものではない、と思うようになりました。心地よい時間そのものが、生活を支える力になります。今のフットケアの仕事につながる原点も、こうした足元の時間にありました。

ご家庭でもできます

足浴は、ご家庭でも取り入れられます。

  • 洗面器に38〜40℃くらいのぬるめのお湯
  • 足首が浸かる程度で十分、5〜10分
  • 終わったら、指の間までしっかり水分を拭く
  • 感覚が鈍い方は、温度を必ず手で確かめてから(やけど予防)

毎日でなくても構いません。「今日はちょっと足を温めようか」の一言と、その数分が、ご本人にとっての楽しみになることがあります。

おわりに

足浴は、ケアの準備であり、観察の時間であり、その方にとっての楽しみでもあります。小さなことのようでいて、生活の質を静かに支えています。訪問看護の現場で教わったこのことは、今も私のケアの土台になっています。

ご家族の足元で気になることがあれば、早めにご相談ください。温める時間をきっかけに、足の変化に気づけることもあります。

足元から、毎日の楽しみが、ひとしずくずつ、すこしずつ。

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