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「足は大丈夫」と言った人の、スリッパの話

訪問の現場で、最初にうかがうと「足は大丈夫です」とおっしゃる方は少なくありません。ご本人にとっては本当にそう感じていることが多く、痛みに慣れてしまっている場合もあります。今回は、そんな一場面から、足元のサインの読み方をお話しします。

目次

「困っていないよ」と言われた日

あるお宅に初めてうかがったとき、80代の男性が玄関先で「うちは何も困ってないんだけどね」と少し不機嫌そうに迎えてくださいました。ご家族が心配して依頼された訪問で、ご本人は乗り気ではない様子でした。

無理にお話を進めず、まずは座ってお茶をいただきながら、世間話をしました。そのあいだ、私はさりげなく玄関のスリッパを見ていました。

右のスリッパだけ、内側の同じ場所が、はっきりとすり減っていたのです。

言葉より、足元のほうが正直なことがある

スリッパや靴の減り方には、その人の歩き方や体重のかけ方が、そのまま出ます。片側だけ極端に減っているときは、痛みをかばって歩いている可能性があります。

足を見せていただくと、右足の親指が巻き爪になっていて、爪のふちが皮膚に食い込み、赤くなっていました。ご本人は「昔からこんなもんだ」とおっしゃいましたが、かばって歩くうちにスリッパの減り方に偏りが出ていたわけです。

痛みを「困っている」と言葉にしない方は、たくさんいます。年齢のせい、こんなものだ、人に言うことではない――。そう思っているうちに、体のほうが先に教えてくれていることがあります。

その日にしたこと

その日は、爪を痛みのない長さと形に整え、食い込んでいた部分の負担を減らしました。特別な処置ではありません。けれど終わったあと、男性が立ち上がって二、三歩あるき、「あれ、楽だな」と小さくつぶやかれました。

次にうかがったときには、玄関で待っていてくださいました。「最近、近所まで歩くようになった」とのことでした。痛みが減ると、人は自然と動くようになります。動けることは、その先の健康にそのままつながります。

足元は、生活の記録です

専門家でなくても、ご家族が見られるサインがあります。

  • 靴・スリッパの片側だけが極端に減っている
  • いつもと歩き方が違う、段差を避けるようになった
  • 外出の回数が減った
  • 「足は大丈夫」と言うわりに、靴を履くのに時間がかかる

これらは「困っている」と言葉にされない不調のサインのことがあります。気づいたら、さりげなく足を見せてもらう、それだけでも早い対処につながります。

おわりに

「大丈夫」という言葉を、そのまま受け取らないほうがよいときがあります。責めるためではなく、気づくために。足元は、その人が口にしない毎日を、静かに記録しています。

ご家族の足元で気になることがあれば、早めにご相談ください。早く手を入れたほうが、回復も、その先の生活も、ずっと楽になります。

足元から、暮らしの様子が、ひとしずくずつ、見えてきます。

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