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残った一本の足を、ピカピカに磨いていた人の話

糖尿病は、足にもいろいろな影響を及ぼします。神経のはたらきが鈍くなり、血のめぐりが悪くなり、傷が治りにくくなる。気づかないうちに進行し、ある日突然「もう間に合わない」段階に入ってしまうことも、残念ながらあります。今回は、私が訪問看護師として働いていた頃に担当していた、ある男性のお話です。

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もう片方の足が、ピカピカだった

その方は60代後半の男性でした。糖尿病で片方の足を切断されてから、数年が経っていました。私が訪問看護師として担当することになり、月に何度かお宅にうかがっていました。

お部屋に通されて、最初に足を見せていただいたとき、思わず手が止まりました。

その足は、ピカピカでした。

爪はきれいに切り揃えられ、かかとはやすりで丁寧に整えられ、皮膚はしっとりと保湿されていました。何年もケアを続けてこられた方の足だ、と一目でわかりました。

「私の足、もう一本だからね」

そう、ぽつりとおっしゃいました。

その人の人生

ケアをしながら、お話を聞かせていただきました。

若い頃から、重い荷物を運ぶ仕事をされていたそうです。一日中、体を使って、家族を養ってきた方でした。仕事を終えてからのお酒と甘いものが、何より楽しみだったとのことです。

「一生懸命働いたあとのお酒は、格別だったんだ」

笑顔で、そう話してくださいました。お疲れさまでしたね、と申し上げると、少し照れたように笑われました。働き続けてきた人の表情でした。

「気のせいだと思ったんだよ」

ある時期から、足の色がおかしいことに気づいていたそうです。けれど、

「歳のせいかな、気のせいだと思っていたんだよ」

そう、ご自身で言い聞かせていらしたとのことでした。働き盛りの男性が、自分の体の小さな異変に「気のせい」と蓋をしてしまうのは、決して珍しいことではありません。

しびれが指先に出て、歩きにくさを感じるようになってから、ようやく病院に行かれました。診断は糖尿病。すでに足の血流は、戻らないところまで進んでいました。切断という選択肢以外がなかった、とお聞きしました。

「もっと早く来てくれていたら」と医師に言われたそうです。その言葉を、ご本人は今もはっきり覚えていらっしゃいました。

残った足を、大事に大事に

切断のあと、その方は残った片方の足を、徹底的に大切にされるようになりました。

毎朝、足を観察する。爪は深爪しないように整える。皮膚に小さな傷ができていないかを確認する。乾燥していたら保湿する。靴は、足に合ったものしか履かない。

「これ一本、なくしたら、終わりだからね」

そう淡々とおっしゃいました。悲壮感ではなく、覚悟のある声でした。

訪問看護師としての私のケアは、その方が毎日続けてこられたことの、ほんの仕上げのようなものでした。むしろ、訪問のたびに私のほうが学ばせていただくことのほうが多かったように思います。

それでも、状態が揺らぐときがあります

毎日大切にされていても、糖尿病の足は、ときに揺らぎます。

少し皮膚が赤くなる日。むくみが強くなる日。爪のまわりがじくじくする日。そういう小さな変化のたびに、ご本人もご家族も、緊張されます。「またあのときみたいに、ならないだろうか」と。

そういう日には、無理に何かをしようとせず、まず観察すること、必要があれば早めに皮膚科や形成外科に相談すること、をお伝えしていました。すでにご経験をお持ちのご本人は、そのことをいちばんよくわかっていらっしゃいました。

糖尿病と足の、早めのサイン

ご家族で、糖尿病をお持ちの方がいらっしゃる場合、次のサインに早めに気づいていただけると、対処の選択肢が広がります。

  • 足の色が、いつもと違う(赤い・紫っぽい・白っぽい)
  • 指先のしびれや、感覚の鈍さ
  • 小さな傷が、なかなか治らない
  • 足の冷たさが、いつもより強い
  • むくみが片足だけ強い

これらは、ご本人より、周りの方のほうが気づきやすいこともあります。「気のせい」で終わらせず、一度受診してみるだけで、進行を止められる場合があります。

おわりに

その男性の足は、過去の生活と、今の覚悟の両方を、静かに映していました。「もっと早く知っていれば」と思う場面は、訪問看護の現場には、たくさんありました。けれど、今からでもできることがある、というのも、同じくらいたくさん教えてもらった気がします。残った足を、毎日ていねいに大事にすること。揺らぐ日には、ひとりで抱えずに相談すること。

あの方が毎日もう片方の足を磨いていた姿は、今フットケアの仕事を続けるなかでも、私の手の動きの奥にずっと残っています。

足元から、その人の歩みが、ひとしずくずつ、続いていきます。

※糖尿病と診断されている方は、定期的に内科・皮膚科・形成外科などで足の状態を診ていただくことをおすすめします。気になる変化があれば、早めにご相談ください。

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